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The Nutcracker くるみ割り人形

イギリス映画 (2010)

チャーリー・ロウ(Charlie Rowe)が、王子(NC)とニコラス・チャールズ(NC)の2役を演じる一種のミュージカル映画。『くるみ割り人形』は、チャイコフスキーの有名なバレエ作品だが、この映画は、その元となったE.T.A.ホフマンの童話『くるみ割り人形とねずみの王様』(1816)に近い。バレエは一部を除き入っておらず、代わりにチャイコフスキーの曲をアレンジした歌がちりばめられている。しかし、この映画は、アメリカの批評家からの総スカンに遭った。Rotten Tomatoesは0%という信じられないような数値。お陰で、予算9000万ドル〔当時のレートで約80億円〕に対し、アメリカでの興収はわずか19万ドル(予算の0.2%)、全世界でも1618万ドル(予算の18%)しかなかった。最大の原因は、アメリカで人気のある漫画家アート・スピーゲルマンの代表作『マウス』で、ネズミは、ナチスの収容所で虐待されるユダヤ人を擬人化した存在だったのに、この映画では、くるみ割り人形に敵対するネズミの軍団を、ナチスそっくりに描いてしまった点。そうした批判を全く無視して観れば、つまりネズミ軍団を無視すれば、この映画にもそれなりの面白さは十分にある。最後の結末が、バレエではなく童話と似ていて、主人公メアリーの夢の中で自分の国を取り戻した王子が、現実の世界でもメアリーの友だちとして現れる点は、すっきりししていて原作バレエより良い。そして、チャーリー・ロウの出番は少ないが、彼が出演していて入手可能な少年時代の映画の中で一番可愛い姿が見られることも素晴らしい。

チャーリー・ロウの出演場面はかなり少ないので、おおまかに内容を述べるにとどめよう。舞台となるのは1920年代のウィーン。時期はクリスマス・イヴ。市内のお屋敷に住むメアリーは、アルバート伯父からドールハウスとくるみ割り人形をプレゼントされる。メアリーの夢の中でくるみ割り人形(NC)は話し出し、クリスマスツリーの置いてある部屋に行くと、天井はなく、ツリーは60メートルの高さになっていた。ドールハウスの人形たちの助けをかりてツリーに登ったメアリーとNCは雪の妖精に出合い、NCにかかっていたネズミの王の母(王太后)がかけた呪いが解けて王子に戻る。しかし、それに気付いた王太后がもっと強い呪いをかけ再び人形に戻してしまう(あらすじの1~3)。翌日のクリスマスの夜、メアリーは再び夢の中でNCと会うが、今度はNCがネズミの王に囚われてしまう。メアリーはドールハウスの人形たちと一緒にNCを救い出す。そして、壊れて死んでしまったNCを愛の涙で蘇らせ、王子の姿に戻す。それを見た王子の国の虐げられていた人々が蜂起し、ネズミの王国は崩壊する(あらすじの4~8)。翌日、アルバート伯父は「新しいお隣さん」のニコラス・チャールズ(NC)を連れてメアリーに会いにくる(あらすじの9)。メアリーは、自分が夢の中で助けた王子と、現実の世界でも友だちになることができた。観ていて違和感があるのは、人形の時のNCと、王子に戻った時のNCの声が違い、態度も全く違うこと。人形の声はシャーリー・ヘンダーソン(『ハリー・ポッター』の「嘆きのマートル」役)が担当していて、人形の態度と同じでかなり横柄。なぜ、意図的に変えたのだろう?

チャーリー・ロウはTVがメインの俳優なので映画ではなかなかお目にかかれない。『ライラの冒険/黄金の羅針盤』(2007)では冒頭と最後の方でチラリ、『パイレーツ・ロック』(2009)では冒頭の一瞬、『わたしを離さないで』(2010)でも出演場面はごく短い。フルに出演していたのはTV映画の『ネバーランド』(2011)のみ。そんな中で、『くるみ割り人形』は3場面でチャーリー・ロウを堪能できる。


あらすじ

メアリーのクリスマス・イヴの日の夢。話すことができ、人間に近い大きさになり、歩くこともできるようになったくるみ割り人形NCは、メアリーを巨大化したクリスマスツリーの上へと誘う。そこにいた雪の妖精は、メアリーを歓迎し、「不可能などないって信じますか〔Do you believe anything is possible〕?」と訊く。メアリーが「はい」と答えると、NCと手をつなぐよう命じ、メアリーの夢が如何に強力かを歌う(1枚目の写真)。その時のメロディーは、バレエ組曲「くるみ割り人形」の第2幕第13曲「花のワルツ」。NCの木の指が人間の指に変わり、NCは登ってくる時に乗った屋根付き橇にこっそり戻る。NCがいなくなったことに気付いたメアリーが橇の中を覗くと、そこには少年がいた。少年は涙を流しながら、人間に戻った自分の両手を見て、「本当なの?」と感激する(2枚目の写真)。メアリー:「男の子なのね」。妖精:「ただの男の子じゃないわ。王子様よ」。王子は、メアリーを見て、「わぁ、君 やったね。信じてくれたからだ〔You believed〕」と感謝する。妖精は、「あなたがネズミの女王の魔法を解いたのよ」とメアリーに教える〔正しくは、女王ではなく王太后〕。    

王子は、喜び一杯に、「これで戻れる。みんなに姿を見せてやれる」と妖精に話しかける。そして、自分に向かって、「そうだ、こうしよう」と言うと(1枚目の写真)、立て続けに、「今すぐ王国に向かうんだ」「いや、待った方がいいかな」と考えを口にする。妖精は、そんな王子を恩知らずとたしなめ、何かをする前にメアリーとダンスをするよう勧める。王子はダンスを申し込む(2枚目の写真)。再び「花のワルツ」が始まり、2人はツリーの人形たちと踊り始める。ところが、それを枝の陰から窺っているネズミの偵察兵が2匹いた。偵察兵は、さっそくネズミの王に御注進に飛んでいく。偵察兵の装いは第一次大戦時のパイロット風だが、ジェットスーツを身に着けている。王子はメアリーに、「長い道のりだけど、てっぺんまで行こう」と声をかけ(3枚目の写真)、ツリーの幹の周りの螺旋階段を一緒に登って行く。      

鉄の螺旋階段を延々と登っていくと、2人は、ツリーの星の直下にある円形のテラスに着く。そこは雲の上。素晴らしい展望だが、1ヶ所だけ黒い雲に覆われている場所がある。王子は、「あの雲が見える?」と黒い雲を差す。「ネズミの王に奪われる前は僕の街だった。そいつの母親が僕を木の人形に変え、そいつは街の中心に軍隊を送り込んで、人々を恐怖に陥れたんだ」と説明する。映像は、メアリーが住んでいるウィーンとそっくりの街に、地中から巨大な塔が何本も伸びてきて、そこからナチスのようなネズミ軍団が溢れ出てくる様を描く。メアリーは、「なぜ黒い雲があるの?」と尋ねる。「ネズミの王は太陽が怖いんだ。だから、雲が途絶えないよう、子供たちのオモチャなんかを煙工場で燃やし続けてる」(1枚目の写真)。偵察兵がネズミの王に「王子の復活」を報告すると、王は母のところに行き、何とかしてくれと頼む。母は「もっと高等な呪い」をかけてやると告げる。母が「ネズミ・ジュース」を飲んで力をつけると王子の手が木になっていく(2枚目の写真)。メアリー:「何が起きたの?」。王子:「呪文が戻ってる。なんで気付いたのかな?」。王子は一瞬のうちに人形に戻る。同じ頃、王が送り込んだ鉄の犬がツリーの根元を齧り切り、巨大なツリーが倒れ、メアリーの目が覚める。まだイヴの真夜中だ。    

メアリーのクリスマスの日の夢。メアリーとNCが巨大化したクリスマスツリーの部屋を再訪する(弟のマックスも一緒)。そこにはネズミの王が待ち構えていて、NCはドールハウスの2人(道化師、ドラマー)と一緒に拘束され、煙工場送りになる。一方、メアリーは置きざりにされ、マックスはネズミバイクが気に入りネズミの王と一緒について行く。その後の展開は、NCと2人は途中で逃げ出すが、NCは2人を逃がそうとして鉄の犬に片足を噛みちぎられ、「命」を失って唯の人形になり、オモチャの山に捨てられる。メアリーはドールハウスの残った1人(チンパンジー)と一緒に「鏡」を通ってネズミの国に行く。、メアリーは、オモチャの山からベルトコンベアーに載せられて燃焼炉に落下する直前のNCを救う。メアリーは近くに落ちていた足も拾い、「お願い、NC、急がないと」と声をかけるが、人形は死んだまま。メアリーはNCを抱いて、「あなたの王国まで はるばる来たのよ。私を1人にしないで。死なないで」と呼びかける。それでもNCは蘇らない。雪の妖精の力も及ばない。メアリーは、どうしていいか分からなくなるが、最後に、「NC、愛してるわ」と言って落とした涙が NCの頬に落ちる(1枚目の写真、矢印)。その愛の力によって、NCの木の指が再び人間の指に戻る。そして、NCが目を開ける(2枚目の写真)。メアリー:「生きてるのね」。NC:「やったね。僕、生きてる。助けてくれたんだ」。立ち上がった王子の姿を見た王国の人々(煙工場で強制労働をさせられている)は、一斉に蜂起する。    

王子とメアリーは、燃焼炉を止め(1枚目の写真)、これ以上黒い雲がでないようにする。その報告を受けたネズミの王太后は、「沈む船からは逃げるべし〔Abandon the sinking ship〕」と息子の王に言うが、これは、「命あっての物種〔Rats desert a sinking ship〕」という諺を上手に引っ掛けたもの。簡単にあきらめきれないネズミの王は、ジェットスーツの兵士と共に燃焼炉に出動し、一時は優勢に立つが、王子は燃焼炉のパイプから高周波を出してジェットスーツを無効にする(2枚目の写真)。    

しかし、ネズミの王は逃げるための人質としてメアリーをネズミバイクに乗せて連れ去る。王子とチンパンジーもネズミバイクに乗って追いかけるが(1枚目の写真、右端は道化師)、途中の水溜りで転倒し「濡れネズミ」に(2枚目の写真)。その後、ネズミの王太后は、自分を見捨ててどこかに消えた息子を呪いつつ、脱出用の飛行マシンに行こうとする。檻に監禁されていたマックスは、「世界中のどんな飛行マシンだって飛ばせるよ」と言い、一緒に連れていってもらう。しかし、実際に乗ってみると、離陸の仕方が分からない。宮殿に戻ったネズミの王は、メアリーを連れて屋上直行のエレベーターに乗るが、その際、なぜか、『ハムレット』で一番有名な、「To be or not to be: That is the question」を口にする。一般的には「生きるべきか死ぬべきか」が定訳だが、ここでは、「復讐すべきかすべきでないか」という劇本来の意味に近い訳の方が適切だろう。これに対し、メアリーは「ネズミにしては、無知じゃないのね」と皮肉る。    

ネズミの王太后とマックスが飛ばそうと悪戦苦闘している飛行マシンの前に、ネズミの王とメアリーが現れる。ネズミの王は、母が自分を置いて逃げようとしたと思い、「捜していたんですぞ、この魔法おばば」と非難する。母は「お前のために準備してたんじゃないか」と反論。お互いに嘘の応酬だ。一方、王子とチンパンジーが王宮だと登っていった階段は、隣のタワーのてっぺんだった。ネズミの王は、なんとか飛行マシンを飛び立たせると、隣の塔の上の王子めがけて襲いかかる。飛行マシンが去った後、王子とチンパンジーは塔からいなくなる。ネズミの王は歓声を上げるが、実際には、メアリーとマックスが開けたハッチにチンパンジーがぶら下がり、その脚に王子がしがみついていた。チンパンジーは王子をつかんでハッチの上に押し上げる(1枚目の写真)。その後、飛行マシンの中では、チンパンジーとネズミの王が大乱闘。あおりを受けたマシンは煙工場にぶつかり、地上のオモチャの山に墜落する(2枚目の写真)。形勢不利と観念した王太后はドブネズミに戻って逃げ出し、それを見た王もドブネズミに戻って逃げ出す。そして、排水口から下水に逃げ込んで消える。    

ネズミの王が姿を消し、チンパンジーが「ドブネズミはいなくなったぞ!」と叫ぶと、太陽が射し、群集から歓声があがり、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番変ロ短調の雄大な序奏に合わせた歌「Life Begins Again(人生は再び始まる)」が始まる。この選曲は状況にぴったりだと思うが、批評家の中には、バレエ組曲『くるみ割り人形』からの歌が続いた後で、最後にピアノ協奏曲が使われたことに「音楽的違和感」を強く抱く人もある。先に書いたように、Rotten Tomatoesは0%。モグラ叩きのように攻撃されなければ、こんな点はつかない。どう見ても行き過ぎだと思う〔アメリカ映画でも下らないものは山ほどあるのに、0%なんてない〕。群集を前に王子は、「あれが、我らの太陽の光を遮ろうした邪悪のドブネズミの王の末路だ!」と宣言する(1枚目の写真)。肩車に乗せられた王子が歌い、両手を高々と上げる(2枚目の写真)。歓声が上がり、歌は最高潮を迎え、王子は花に包まれる。メアリーがそれを見ていると、雪の妖精が現れ、馬車に乗るよう促す。「ごめんなさい、メアリー。でも、そろそろ家に帰る時間なの」。「ここが私の家よ」。「いいえ、唯の夢なのよ」。「なら、目覚めたくない。ここにいちゃダメ?」。しかし、馬車は動き出す。メアリーが去るのを見た王子は、駆け寄ると、「恩返しはできない」と謝った後で(3枚目の写真)、「また会おう」と声をかける。「本当?」。「約束する」。そして、メアリーの目が覚める。もう朝になっていた。      

目を覚ますと、大好きなアルバート伯父が来たとの知らせが入る。メアリーは飛んでいく。伯父は、「気に入ってくれたらいいんだが、ある人を連れてきた。少し、恥ずかしがり屋なんだ」と前置きし、「いいかな?」と訊いてドアを開ける。部屋の奥にはドールハウスが置いてあり、その前に1人の少年が座っている。伯父が、「メアリー、私の新しいお隣さん、ニコラス・チャールズ君を紹介するよ」と言うと、ニコラスが恥ずかしそうに立ち上がる(1枚目の写真)。メアリーは、ニコラスが王子そっくりなのを見てハッとする。メアリーが近づいて行くと、ニコラスは「NCと呼んで」と言う。まさに「くるみ割り人形(Nutcracker)」のNCだ。メアリーは同じ少年だと確信する。ドールハウスの前に座った2人。NCが微笑む(2枚目の写真)。メアリーはドキドキして、なかなか声がかけられない。映画の最後は、2人がウィーンの都心の広場に設けられたスケートリンクで仲良く滑るシーンで終わる。    

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